学校給食の現場調理員さんに聞く

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 学校給食の民間委託化反対の運動が大きく広がっています。そこで、学校給食の現状と民間委託の問題点について現場で働く調理員さんに聞きました。

 給食の安全と衛生が一番不安に思います

 みんなが一番心配しているのは、給食の安全性です。民間委託されると調理現場はどうなるのでしょうか。

 こどもを持つお母さんたちが一番気にしている問題です。保護者の生の声として私も聞いています。O−157事件の後ですが、給食がどういう風に作られているのかという声があって、一日の調理の流れや、どこに気をつけているのかをお母さんたちに説明したことがありました。
 まず服装、心がまえなど調理場に入る時に注意する事から、食材の受け取り、手洗い、汚染区域と非汚染区域との区別、温度管理などお話しました。「ここまで気を使ってくれているんですね」という言葉が返ってきたときは、調理員として大変うれしかったです。
 それが民間委託された場合どうなるのか。いろいろ委託された学校のお話しを聞くと、調理業務を委託した場合、委託会社はコスト(人件費)を安くおさえなければ会社の儲けがないのですから、できるだけ正社員を減らし、他は短時間労働のパートさんを雇います。大体、1校につき正社員は2人のようです。そうなったら安全衛生のための学習や講習は、現在の職員の場合とは、比較にならないほど少なくなると思います。パートさんが悪いというのではなく、委託会社は、人手がかかる時間帯のみパートさんを雇うので、どうしても安全教育などおろそかになってしまうのです。
 また、実際に給食を作っている調理員と栄養士との関係でいうと、直営の場合、たがいに顔が見えるところで仕事ができます。「ここは気をつけよう」とコミュニケーションがとれます。ところが委託になった場合、栄養士は委託会社の社員には事前にマニュアルによる指導しかしてはならない事になっています。実際に給食を作っているところで指導できないのです。パートさんには社員を通じてしか指導できないのです。これは大変な問題です。実際に働いていて、それで大丈夫かと不安になります。

 「温かい物は温かく 冷たい物は冷たく」

 温かいものをこどもたちに出したいから、また早めに作って何時間もたって出すと、その間に腐敗が始まってしまうからと、いろいろ配慮していると聞きますが。

 こどもたちが食べ始める時間にあわせ、出来あがり時間を計算し、調理の手順を組んでいます。時間がたてばたつほど味は落ちますし、衛生的にも問題が出てきますから、「温かい物は温かく、冷たい物は冷たく」を合言葉に作業工程を組んでいます。

 いまは、アレルギーを持つこどもへ配慮し、特別なメニューまで作ってくれていますが、民間委託でなくなってしまうのではという不安もありますが。

 十分ありえますね。

 昔に比べると食物アレルギーのあるこどもは大変多いです。卵、牛乳、乳製品、ソバなど。保護者よりアレルギーがあると申し出があった場合、その一人一人のこどもの状況を正しく把握し対処するために教師、保健室の先生、栄養士、調理員が一体となって取り組みます。除去食と言いますが、具体的にアレルギーを起こす食品を取り除いたメニューが作れるのか、弁当を持ってきてもらうなどの対応になるのかなどを検討し、対処しています。
 こういう作業には時間も人手もかかりますし、コストを優先しなければ生き残れない民間企業にとっては難しいと思います。
 実際に除去食を行う場合は、細心の注意をもって作業を行うことになります。「アナフラキシー」などのショック症状がある場合は、アレルギーを起こす食品を混入させてはならないのはもちろんの事、調理器具から食器にいたるまで別にしなくてはいけない場合もあります。
 私たち調理員にとっては重労働になり、手間もかかります。しかし、こどもたちがすくすく成長することを願い、必要な労働条件は要求し、確保してきました。また、正しい知識とチームワークも大事です。私たち調理員は、栄養士を中心に夏休みなどを使い、学習や講習を積み重ね、現在の地平をつくりあげてきました。

 こどもたちとともに食について学ぶ教育

 学校給食は、みんなで育てあげてきた、学校教育の重要な一環です。それが、どうなってしまうのか。

 こどもたちは、給食が大好きです。給食室の窓ガラスごしに手を振って「おばちゃん、今日はなあに」とか「今日はおいしかったよ」とか言ってくれます。「僕これ嫌いなんだ」という子もいます。そういう場合、「これは、君が大きくなるためにこういう栄養になるんだよ」と話します。
 どこの学校でも給食室の前には献立表とか、成分表とかがあり、こどもたちは掲示内容を見たり、自分たちで書いて食べ物について勉強しています。教師はもちろん栄養士、調理員と話をすることで゛食″について学んでいるんです。
 学校給食が自校直営であることの一つの利点に、その地域にあった、いろいろな行事食をやるとか、給食週間などを通して、こどもたちといっしょに食文化を学べる場があるということです。実際に私も、郷土料理について勉強したり、学校給食が始まった頃のメニューがどんなものだったかを再現してみるとか、お米の種類を調べるとか、こどもたちといっしょにやりました。また、世界の料理をテーマにして食文化の違いなどを勉強したこともありました。こどもたちといっしょに成長した気がしています。
 調理員、栄養士、養護教諭、担任教師など学校に働く職員が団結してこそ、教育の一環としての学校給食ができるのではないでしょうか。これができるのも調理員が同じ学校の職員だからです。
 民間委託になった学校の様子を聞くと、他の学校の職員にとって、給食室でどういう人が働いているのかもわからないということがあるそうです。特にパートさんの場合、入れ替わりが激しく顔も覚えられないところもあるそうです。職員全員で力を出し合い、こどもたちの成長を見守っていくというシステムが壊されていくような気がしてなりません。教育の一環と位置づけられている学校給食の意義が失われようとしているのです。

 こども真ん中にして地域と働く者が団結

 杉並で父母と教師、栄養士や調理員さんたちの運動が大きく広がっていますが。

 学校給食は、保護者と学校職員と地方自治体が一体になって作りあげてきたものです。それを守っていくのも、地域と保護者、教師、栄養士、そして私たち調理員。手を取り合ってこの運動を進めていくことが、一番大事です。その真ん中には、こどもがいる。こどもの成長を願い、命と健康を守るため、働く者と地域の人たちが、いっしょになって、杉並の自校直営方式を守っていくことが大事です。ともに民託化阻止へたたかいましょう。



 安全でおいしい給食 作る技術伝わらない

 学校給食の調理現場は、民間委託されたら、どうなるのでしょうか。

 自校直営の学校給食は、栄養士がカロリー計算して、こういうメニューでいきたいと、給食の献立をつくります。それを調理員と栄養士で、調理方法について毎日話し合いをしています。きざみ方も見た目も考え、「こういうふうに切ったほうがいいね」と。また途中で手順を変えてみたり。こどもたちにおいしい給食を食べてもらいたい、すくすく成長してもらいたい、という思いで、時間をいとわずやっています。その基本に安全・衛生があるんです。
 それが、民間業者になると、栄養士からの指示書だけで民間の調理員は調理をすることになってしまいます。民間委託化された学校の栄養士さんが言っていました。
「委託会社の人といっしょにやるようになって、皮のむき方、切り方から、全部を指示書で説明しないと、自分がイメージしたものが作られない。指示書だけではできないので、よくないことだけど、つい手も出してしまう。以前ならたとえば、すまし汁で、こういう材料だったらこうねと、あうんの呼吸でできたのに」と。
 毎日、私たちがやっていることは、そういうことだと再認識しました。
 学校給食について、お母さんたちに一番知ってもらいたいのは、量が家庭で作る食事とまったく違うということです。全然感覚が違うのです。5人分を作る場合と、500人分をつくるのでは、単純に百倍の調味料だとか、百倍のやり方で料理はできないのです。そこは調理員の長年の経験が重要になります。先輩の調理員から新しい調理員へと受けつがれてきた調理の技術。それは集団調理という、一つの職分野なんです。
 民間委託になった場合、労働者派遣法の関係で、雇用期間は1年に限られます。だけど、大量調理の技術は1年や2年で、引きつがれるものではないのです。

 衛生の面での問題で区の責任あいまいに

 それと、起こってはならないことが起こった場合です。いまの自校直営方式の場合、区がすべての責任を負うことになります。ところが民間委託された場合、どこからどこまでが区の責任で、どこからどこまでが民間会社の責任か、という話になります。
 どこに原因があったのか把握するのは非常に困難になって、学校給食に責任を取るべき自治体の責任が、あいまいにされてしまいます。
 こういう事がありました。私といっしょに調理の仕事をしていた人が、学校給食の調理業務を請け負っている民間会社の採用試験をうけた事がありました。この会社の安全衛生に対する考え方がいい加減だったため、その人は民間会社で調理員として働くのは不安だと思い、応募はしたけれど働くのはやめてしまいました。長い間に調理員がつちかってきた大量調理のための衛生管理マニュアルがあり、それによって安全が守られてきたのです。

 コスト削減ならない 逆にますます負担増

 民託化の最大の理由に「コスト削減」が言われますが、本当にそうなるのでしょうか

 台東区の例ですが、民託が開始された当初、これは杉並もいっしょですが、退職者の欠員部分からどんどん民間委託していく手法を取りました。そこで、どういうことが起きたのか。台東区では委託料が、委託を開始した初年度と、委託が完了した最後の年では、3倍化しました。
 委託料が上がっていることが指摘されて、こまった台東区当局は、2002年度の委託料を2001年度より引き下げると、委託会社に通告しました。委託会社が何と言ったか。「委託料は下げてください。それでやります。ただし自分たちが派遣するパートの人数を減らします」と区に通告してきたそうです。
 そうなると、本当にこどもたちに安全でおいしい給食を作るための人員配置がされないことになります。民間会社は、もうけ優先で人を配置するということです。質は後回しになる。利益があがらないとなったら、そこで働くパートさんの人数を削る、働く時間を短くしてしまう。
 そこで働く人のためでもなく、食べるこどもたちや給食費を払う保護者のためでもなく、ということが起こっているんです。
 また他の区の例では、児童数が減っている中で、1つの学校の給食を業者が請け負っても、食数で計算されますから、もうけが少ない。調理室では、大きな回転釜で煮炊きするんですが、その釜の数で委託料を決めてくれと言ってきたところがあるそうです。たとえば一時期は1000食以上を作っていた調理場で、いまは300とか400人とかの児童数になっているところで、5つ回転釜があるとすると、それで委託料を計算しましょう、というわけです。
 また、ある区では、民間会社が保育園に調理業務の委託業者として入ったとき、調理業務の委託だけではもうけが少ないから、食材も委託会社が請け負うという契約内容にしてほしいということで、そういう方式を取っているようです。
 いまの自校直営方式では、栄養士さんが、近所の八百屋さん、肉屋さん、豆腐屋さん、魚屋さんと直接契約して、品物を吟味し、できるだけ地場のもの、合成保存料とかがないものをと、お互いの顔が見える形でやっています。その関係がくずれて、委託業者がもうけるために一括購入になる。まだ学校給食では、そういうことが起きたというのは聞いてませんが、今後考えられます。
 私が不安に思うのは、O−157事件のとき、大量一括購入だったため、被害が大きくなったことです。一括でやると影響が大きくなるんです。食材のチェックが、なかなかできない。

 教育も福祉も削減の対象にしていけない

 福祉もそうですが、教育は削減してはいけないところだと思います。

 地方自治体の仕事として、教育や福祉は、お金がかかるものだし、コストで計算できるものではないと思います。高齢者や「障害者」の問題もそうだし、こどもの問題もそうです。
 ちょっと考えてみてください。お父さんやお母さんが、こどもと話をするときに、「時間がないから」と、はしょっちゃったら、こどもは理解してくれません。めんどくさいかもしれないが、時間をかけてこそ、こどもとお話できると私は思います。
 時間とかお金とか気にして、「コスト削減」のために学校給食を民間に委ねるというのは、地方自治体の仕事として、よくないことだと思います。また、この間の杉並の調理員さんや保護者のたたかいの中で、決して委託がコスト削減にはならないことが明らかにされています。
 実際にお母さん方で、疑問を持っていらっしゃる方、「本当にそうなの」と思っていらっしゃる方、学校の調理室をのぞきにいくとか、調理員さんと話してみてください。私たち調理員は口べたですし、午前中は作るのに追われ、午後は後片付けに追われているんですが、お母さんたちが質問してくだされば、みんな喜びます。ぜひ保護者会の帰りにでも、何か学校で行事があるときには、持っている疑問をぶつけてほしいのです。その中で、調理員が何を思いながら、毎日、学校で仕事しているのか、わかっていただけると思います。


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